飽きずに、「美味しい」と感じてもらう豆腐を目指して
GDプロダクションでもいつもお世話になっている横山とうふ工房(峡西豆腐工房 横山食品)さん。代表の横山さんの斬新な企画力や豆腐づくりへのこだわりには、いつも驚かされ、頭が下がります。商品開発にも一緒に携わらせていただき、豆腐の美味しさも誰よりも知っている1人だと思っていましたが、今回改めてインタビューさせていただいて、改めて横山さんの苦労や努力、信念を知ることができました。横山とうふ工房の豆腐の想いや美味しさの理由が1人でも多くの人に伝わりますように。

受け継いだ昔ながらの豆腐屋を自分流に発展
横山とうふ工房が創業したのは大正3年。私の祖父が長野から山梨に移り住み、立ち上げた工房です。
私自身も幼い頃からよく手伝いをさせられました。出来上がったものをパックしたり、パッケージされたものを機械から出して詰めたり。昔はこんにゃくも作っていたので、こんにゃくが入っている大きな桶を棒でかき回したりしてました。一番苦痛だったのは、油揚げの生地を機械から取ってカゴに並べていく作業。それを1時間くらいずっとやるんですよ。単純作業だったので、遊びたい盛りの小学生にとってはツライ時間でした(笑)。
ただ、家業が豆腐屋だったことを「嫌だ」と思ったことは一度もありませんでした。
私が本格的にこの工房を継いだのは28歳の時。それまでは、父が経営していたんですが、当時流行していた地方病(日本住血吸虫症 )を患っていたのもあって、体調を崩しがちでした。それでも母や親族が必死に回していたんです。そんな中、私が27歳の時に、父が他界。そのまま引き継ぐ形となりました。
じゃあ、それまでは他にやりたいことがなかったのか…というと、実はそんなこともなくて。私が高校生の頃は、IT技術が急速に進化し始めた時代だったんです。元々機械に興味があったためか、知らず知らずのうちにのめり込んでいきました。当時、プログラミングができる部活動もあって、すごく楽しかったですね。そのまま専門学校にも行きましたが、ちょうどその頃に父の体調が悪化。家業の手伝いをしなければならなくなり、それどころじゃなくなってしまったんです。
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この工房を継ぐ頃は「自分にできるのか」という不安が強くありました。豆腐作りは父を見て覚えはしたけれど、その方法のままで本当にやっていけるのか…と。
転機が訪れたのは、父が亡くなる少し前。工房の機械を入れ替えようという話になったときです。その機械を取り扱う業者さんたちから、この機械でこういう事もできる、あんなこともできると教えてもらったり、長年その業界にいる方たちなので、より美味しく効率的に作れる方法なんかも相談することができました。
私自身も機械は得意分野なので、アレコレ試す事ができたのがすごく楽しくて。ちょっと調子が悪ければ自分で直すこともできました。昔ながらのやり方では出来ないことが、機械の力を借りたら出来ると感じられて、とてもワクワクしたのを覚えています。
そんな中、入れ替えたばかりの新しい機械を使って、豆腐を作ってみたんです。そうしたら、それがものすごく良い出来で。当時、商品を卸していた店舗のバイヤーさんもみんな驚いていました。「今までと全然違う! これはいける!」と太鼓判を押してくれた方もいました。その後も、試行錯誤していった結果、安定していろいろ出来るように。それに伴って、各店舗の売り場も拡大。豆腐の可能性が広がっていったと同時に、私の中のスイッチが入った瞬間でした。
ひとつのものを仲間と一緒に作り上げていく楽しさも豆腐屋の醍醐味
うちは1日2000~3000丁の豆腐を作っているんですが、その日の天候や湿度、豆の状態なんかで毎日出来が微妙に変わってきます。豆乳もサラッとしているときがあれば、ドロッとしていたり。当然味も変わります。それをどうすれば毎日同じ品質にできるのかが、豆腐屋の腕の見せどころっていうんですかね。そこも面白さのひとつです。
それと、豆腐づくりに欠かせないのは、なんといっても「水」。豆腐は水が命です。うちは、この南アルプス市の井戸水を使っているんですが、水質調査の結果も「名水」レベル。この井戸水だけは絶やせないですね。
そして、もうひとつ面白さという面で欠かせないのは、新商品の開発でしょうか。
この1、2年は、大手の豆腐メーカーさんが進出してきていることもあって、実は売り場も飽和状態。価格競争にもなってしまって、売上も頭打ちでした。なんとか打開策を…と考えたのが、「生豆腐」や「粋な湯葉」、「豆肌美人シリーズ」といった新商品。
温かいままの「生豆腐」は、昔も作っていた商品でしたが、製造を中止していたんです。そんな話をバイヤーとしていたら、「それやってみようよ、絶対いい」と言われて。信頼しているバイヤーさんだったので、試しに置いてもらったんです。そしたら、それが大反響。直接工房にも感想が届く程でした。
「粋な湯葉」、「豆肌美人シリーズ」は、GDプロダクションの飯島さんもプロデューサーとして関わってくれた商品。1人で考えるのではなく、そうやって何人かの人と試行錯誤しながら1つのものを作っていく楽しさを知りました。おかげで、この1年でグッと知名度も上がりました。たくさんの人が、店頭でも、工房でもお買い求めいただいています。

「今が一番楽しい!」と心から思います
先日、全国豆腐品評会関東地区大会では、充填部門「銅賞」、「輸入大豆賞」を。全国品評では「カナダ大豆賞」を頂きました。これ、本当に嬉しいというか、「ビックリ!」の一言で。初めての出場だったので、名前を呼ばれたときは「まさか!」と思いました。
「この豆腐で出てみようよ!」と背中を押してくれた妻のおかげですね。
今後の夢としては、カナダ産の大豆を使って、他の賞も受賞できるようにしていきたいということ。今の大豆を使って、更に美味しいものを。そして同時に、商品の開発もしていきます。
今の一番のおすすめは、山梨県産のワインに漬け込んで、燻製屋「響」さんで燻製にしてもらった燻製豆腐「豆薫香絹男爵(まめくんかきぬだんしゃく)」。地元山梨の職人が共同で開発した、自慢の逸品です。こういうことが出来るのも地元のつながりがあってこそ。この南アルプス市の良さも一緒にお届けできたらいいなと思っています。
「豆肌美人」シリーズも実は新商品を開発中。もう少ししたら、また皆さんにお披露目できるかと思います。
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正式に父から継いで、今年で23年になります。その間、山もあったし、谷もありましたが、「今が一番楽しい!」と心から思います。取り扱ってくれている店舗の担当者の方々にも、購入してくださるお客様にも、一緒にワクワクしながら歩んでくれる家族やスタッフにも感謝の想いでいっぱいです。
豆腐づくりは、私の一生の仕事だと思っています。たくさんの方に、気負いなく「いつもの豆腐」として食卓に上げてもらえる豆腐を目指して、これからもがんばっていきます。

住所 :山梨県南アルプス市下今諏訪564
定休日 :不定休
電話 :055-287-6189
HP :https://yokoyama-tofu.com